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試用期間Trial Period




概要

従業員を雇用する際に、本採用までの数週間から数ヶ月間を「試用期間」とすることができます。採用試験だけでは分からなかった「勤務態度、業務習得能力、適正、性格など」を見て本採用するかどうかを判断する期間のことです。

ただ、この試用期間に関しては、労働基準法第21条に解雇予告手当てとして一部記載があるだけで、試用期間自体に関する法律はありません。

この為、一般的に数週間から長くて数カ月間の試用期間を設けている企業が多数あると思います。ここでは、この試用期間に関する考え方を記載致します。


試用期間の位置づけ

試用期間とは、従業員の勤務態度や業務習得能力などを見て、本採用するか否かを判断する期間で、もし会社が従業員として不適格であると判断した場合、その理由のみで正式採用をしないことができる(解雇できる)期間のことです。
この法的性質について最高裁判所は「解約権留保付きの労働契約 」との判断を示しています。(三菱樹脂事件 昭和48.12.12参照)

ただ、
本採用を見送る際にはいわゆる「解雇」となりますので、試用期間中だからといっても安易に本採用拒否(解雇)できるわけではありません。試用期間中の従業員の「勤務態度、業務習得能力、適正、性格など」をきちんと見極めてから判断する必要があります。

試用期間は自社の正式な従業員として働いているのであり、労働契約も締結されておりますので、社会保険・労働保険共に加入する必要があります。この為、採用試験の延長のような扱いとは異なります。採用試験では知ることのできなかった勤務態度や適格性などを判断して、継続して採用し続けることが困難であると判断される場合に、「本採用できない」との結論になります。


本採用拒否

実際に本採用中止を行うような場合は、就業規則にその旨明記しておく必要があります。試用期間の規定とは別に「本採用拒否」の規定を作ります。

本採用しないと判断した場合には、その理由が、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇権の濫用となり無効となりますので注意が必要です。(労働契約法第16条)。

労働契約法 第16条 (解雇)
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。


試用期間終了後の本採用拒否については、上記の通り解雇扱い
になりますので、慎重に行う必要がありますが、通常の解雇よりも広い解雇の自由が認められるとの判例もあります。
このあたりは個別具体的な例に則して考える必要があるのでしょうが、企業としては本採用拒否の明確なルールを規定しておくのが現実的な運用です。

試用期間の長さ

試用期間の長さは、会社が自由に設定することができます。これは、労働基準法の解雇予告手当ての条項に記載されている14日間とは無関係に設定することが認められております。

試用期間の長さは法的な規定はなく、企業が自由に設定することができますが、公序良俗(民法90条)に反するような長期間の試用期間は無効になる可能性がありますので、注意が必要です。ちなみに国家公務員や地方公務員の試用期間は6ヶ月間と法令で規定されております。

【判例】 ブラザー工業事件 昭和59.3.23 名古屋地裁
 この事件では、労働者の能力や勤務態度を判断するために必要な合理的な期間を超えて試用期間を設定することは公序良俗に反して無効であるとしています。


民法 第90条 (公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

民法 第90条 (公序良俗)
 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。


ここで、試用期間の統計情報をお見せします。「労働政策研究・研修機構」が調査した「従業員の採用と退職に関する実態調査」によるものです。

新卒では、66%が3ヶ月、次に多いのが6ヶ月で18%です。6ヶ月以内が98.6%となっております。



次に中途採用の場合ですが、こちらも同じ実質的に新卒と同じ結果になっております。


念のために新卒と中途採用とで、どの程度の差があるが確認しましたが、実務上は無視して良いレベルです。



有期雇用契約の場合

有期労働契約との兼ね合いですが、例えば有期労働契約が6ヶ月の場合、試用期間を同じく6ヶ月とするのは試用期間の趣旨から言って望ましくないでしょう。ハローワークによっては有期労働契約期間と試用期間を同じにして募集を依頼すると注意を受ける場合もあります。
有期労働契約のトピック


試用期間の延長

また、試用期間の延長を行う可能性がある場合は、就業規則に明文化しておく必要があります。ただ試用期間の延長は、病欠が多いなどの特別な場合に限るべきでしょう。近年増加しているうつ病などの精神障害に新卒の試用期間中の者がかかった場合などは試用期間の延長をして様子を見るのも一法だと考えられます。

例えば、パートタイムや派遣で既に自社で働いていた者を正社員で雇用する場合は、その者の働きぶりが十分わかっているはずであるから試用期間を設けないように厚生労働省は指導しております。


試用期間を解説したメルマガ記事はこちら

試用期間は有期雇用契約とは全く別物です
稀に使用期間と有期雇用契約を混同されている経営者の方がいらっしゃいます。試用期間は通常正社員に対して設けるもので、有期雇用では適用しないのが一般的です。

有期雇用期間を試用期間と勘違いするのは、まだ良いのですが、試用期間を有期雇用と勘違いするのは問題です。試用期間が終われば基本的には本採用となりますので、ご注意下さい。
試用期間の判例等、参考文献
試用期間中の採用拒否(解雇)に関する判例は、認められたもの、認められなかったもの両方が存在します。

神戸弘陵学園事件(最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/07/s0712-4h.html#03

「濫用的試用期間」 をめぐる法的考察
http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/1409/1/r-ho_044_02_003.pdf



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